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書評:会話で覚える四字熟語

OpenFOAMともCAEとも関係がないのだが、ちょっと息抜き。

  • 新稲法子著、「会話で覚える四字熟語」(京都書房ことのは新書)

登場人物が、部活、スーパーでの買い出し、旅行、その他のシチュエーションで会話を繰り広げるのだが、その会話の中に四字熟語が入ってくるというスタイル。その四字熟語にはそれぞれ意味の説明があり、ところどころに詳しい解説のページがある。

四字熟語に限らず、言葉は文脈があってはじめて意味を持つものだから、本来、文例を示してくれないとなかなか覚えられるものではない。考えてみれば「基礎英語」でもなんでも、まずダイアログがあって、その中に重要な単語やイディオムが含まれていたものだった。かつていろいろ読んだ記憶のある漢字の熟語や四字熟語の本は、すべて語と意味、解説のみ、せいぜい短い用例がついているのみで、意味のあるショートストーリーの中で使われる、というパターンは初めてだと思う。今風なのかも知れないが、斬新だ。

新書で約180ページと薄い割に、収録は約400語。意外と中身の濃い本だが、軽く読めるところがミソである。

収録された語の中には、知っているものもあれば、知らないものもあり、間違えて覚えていたものもあり、なるほどと思いつつ読んだのだが、一点、非常に興味深い記述があった。それは、四字熟語といった際にどこまでを範囲とするか、明確な定義がない、という部分である。

四字熟語はよく学校でテストにも出やすいし、その珍回答が雑誌などでも取り上げられやすい。あまりにも有名な解答例に、「□肉△食」の空欄に適当な漢字を入れて四字熟語を完成させよ、という問いに対し「焼肉定食」と答えたというもの。出題者側の想定していた解答は「弱肉強食」だろう。これの面白いのは、「焼肉定食」という解答例を見ると、普通の人は「それはダメだろう」と思うが、「よく思いついたな」という気持ちもあり、それでユーモラスに感じるわけである。

では、「焼肉定食」ではなぜダメなのか? と訊かれたらどう答えたらいいだろう。

「焼肉定食」がいいなら「煮魚定食」や「唐揚定食」もいいことになり、きりがない、とか、卑近過ぎて教養ある言葉とはいえない、などなど思い浮かぶが、説得力のあるものではない。*1

本書では説得力のある説明があった。それは、多くの人が違和感を持つのは「焼く」が訓読みだから(というよりも和語だから)ではないか、というもの。なるほど! 確かにそうだ!! とものすごく納得したのである。四字熟語っぽくすると見た目もよく、座りがいいからそうしているが、本来は「焼き肉定食」「唐揚げ定食」と送り仮名が入るべきところである。

ところが、次のような語にも和語が含まれている、といって作者は「岡目八目」「内股膏薬」「白河夜船」などいくつも例を挙げる。「焼肉定食」がダメなら「白河夜船」もダメなのか?

また、真ん中あたりに「先見之明」という言葉が登場し、あーこれって「先見の明」と思っていて四字熟語だと意識したことなかったけど本当は四字熟語だったんだな……と思っていたら、これもボーダーラインだとして、「竹馬之友」「烏合之衆」「漁夫之利」などいくつもの例を挙げる。

言葉の取捨選択ひとつ取っても、いろいろな見方があり、定まっていない、という知見を得たことが一番大きかった。

会話で覚える四字熟語 (京都書房ことのは新書)

会話で覚える四字熟語 (京都書房ことのは新書)

リンク

↑作者のサイト。

*1:結局、自分としては、「焼肉定食」は特定のものを指す名詞句であり、ものの性質や状況を表わすものではないから、四字熟語を考える時には対象外にした方がいいのではないかと考える。「白河夜船」は和語が混じっていても、含めた方がいい。別の言い方をすると、もしジテンに採録されるとしたら、「焼肉定食」が載るのはencyclopediaであってdictionaryではないから、ということである。